

歯科において「インプラント治療」という言葉を最近耳にすることが多いと思います。失った歯の代わりに純チタン製の人工の歯根(インプラント)をあごの骨に埋め込むことによって噛み合わせや審美性などを回復させる治療のことです。
何よりも最大のメリットは生体に優しい、確実な治療でありQuality Of Life(生活の質の向上)が期待できるということです。
歯(永久歯)を失ってしまった場合、これまでの歯科治療においては、その隣の歯を削って橋をかける「ブリッジ治療」か、 取りはずし可能な「入れ歯」が一般的でした。
しかし、ブリッジ治療や入れ歯にはそのメリットに比べデメリットが多く、患者様の悩みの原因にもなっています。
欧米での歯科におけるインプラント治療の認識度は非常に高く、適応数も多く、スイスにおいては日本の約20倍であり、しかも歯科大学の学生講義の中にブリッジの講義が廃止されていると言われています。審美性が良くなるだけでなく、咀嚼力も天然歯同様になるため「第2の永久歯」とまで呼ばれています。歯が1本だけ欠けている場合から、歯をすべて失ってしまった場合にまで広く対応できることが魅力です。

ブリッジ治療
隣接した健康な歯を支台として、欠損した歯を再現したブリッジをかぶせる方法です。
利点
- 固定式のため一度装着してしまえば違和感は少ない。
- 治療期間は比較的短期間。
- セラミック系の材料(保険外)を使用すれば審美的に問題はない。
注意点
- 前後の歯を削らなければいけない。(しみる、虫歯の再発が起きやすい)
- 力学的に無理がある。(根が割れやすい、外れることがある)
- ブラッシングに工夫が必要。

入れ歯
取り外し式の部分入れ歯は、それを支える顎の骨や天然歯に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
利点
- ブリッジ治療には困難な比較的大きな欠損に対応できる。
- 前後の歯を削ることはあまりない。
- 治療期間は比較的短期間。
注意点
- 異物感が大きい。(保険外の材料である程度改善可能)
- 前後の歯にバネがかかることが多い。
- 取り外さなければならない。
- がたつきやすく、しゃべりにくい。
- 食べ物が挟まって不潔になりやすい。
- 噛む力が天然歯の3割くらいにしかならない。

インプラント
インプラント治療は、歯が欠損した部分のみの治療ですみ、隣接する天然歯と機能的にも審美的に判別がつかないほどです。
利点
- 天然歯のように顎の骨に埋め込むので自分の歯のように全く違和感なく生活できる。
- 動かないので長期的に噛み合わせが安定する。
- 前後の歯を削らないので生体に優しい。
- セラミック系の材料を被せれば天然歯と区別がつかない。
- 発音や発声も以前のまま
- 顎の骨の収縮を予防するため必要以上に老けた印象を与えない。
注意点
- インプラント本体を顎の骨に埋め込む手術が必要。
- 全身疾患(糖尿病、骨粗鬆症など)のある方はできない場合がある。
- 骨が重度に痩せている場合できない場合がある。
- インプラントを健全に維持するためには十分な口腔衛生の管理と定期的な検診が必要である。
インプラントは手術時に顎骨に埋め込むインプラント本体(フィクスチャー)とインプラント本体の上に取り付けられるアバットメント、被せ物(上部構造)の3つの構成要素から成り立っています。
また、一口に「インプラント」といっても世界で約60種類くらいあり、日本で認可されたものでも約20種類ほど存在します。それぞれ特徴があり適応症に合わせて使用されます。
私たちはチタンインプラントとして「ストローマン」(スイス製)、ハイドロキシアパタイトインプラントとして「カルシテック」(アメリカ製)を適応症に合わせて使用しております。
検査とカウンセリング
画像検査(CT撮影を含む)、咬合診査、歯周組織検査などを行い、それをもとにして術前シミュレーションを行います。
また費用の提示、治療計画の説明や同意書の作成などを行います。
歯周病との関わり
歯の喪失の原因が歯周病の場合、インプラントの成功率は下がるというデーターがあります。インプラントも天然歯と同様にインプラント周囲炎という歯周病になることがあります。
従って、より成功率を上げるためには歯周病を完全にコントロールする必要があります。
定期検診
インプラント治療は100%の治療ではありません。しかし、過度の加重負担や感染さえ起こらなければ非常に成功率の高い治療であることが科学的にも臨床的にも実証されています。
10年生存率は95%と言われています。
そのためには定期的なメインテナンスを受けて頂き、客観的な評価を受けて頂く必要があります。
インプラント治療に注意を要する方
糖尿病、高血圧、腎疾患、肝疾患、骨粗鬆症、心血管疾患、脳血管障害、金属アレルギー、薬物、アレルギー、うつ病、喫煙、ブラキシズムなどがあります。
詳しい問診や検査が必要になることがあります。
手術について
通常のインプラントの手術自体は1時間前後です。局所麻酔で行い、埋まっている親知らずの抜歯と同程度の内容です。食事も麻酔が切れれば問題ありません。
手術中は感染防止のため細心の注意を払っていますのでご安心下さい。
治療期間について
最近インプラントを埋入してすぐに噛むことができる術式もありますが通常はインプラントを埋入して噛めるようになるには最低6週間以上待たなくてはなりません。
また、特殊な手術を併用した場合や、骨質に問題がある場合はもう少し期間が長くなります。
痛みや腫れについて
術後の痛みは抜歯と同様に多少はありますが鎮痛剤を服用していただければまず問題はありません。また、腫れに関しても埋まっている親知らずの抜歯後のように腫れることはほとんどありません。
翌日も飴玉を口に含んでいるような程度です。
しかし、当日の運動や飲酒などはお控え下さい。
特殊な手術
GBR法
インプラント本体を顎骨に埋入するにあたり、骨量が不足する場合にその部分に骨造成を行う方法です。
骨移植材(自家骨、異種骨移植材、人工骨材)とメンブレンまたはフレーム(チタン)を使用します。
スプリットクレスト
やせ細った歯槽堤を真上から分割することで骨造成を行う方法です。
水平的骨造成が可能です。
上顎洞底挙上術(ソケットリフト)
上顎骨の高さが足りない場合に上顎洞内に通じるインプラント埋入窩から骨移植材を填入し、上顎洞粘膜を挙上する方法です。
抜歯即時埋入
手術の回数を少なくし、治療期間を短縮するために抜歯と同時にインプラントを行う方法です。適応症が限られます。
歯槽堤温存術(ソケットプリザベーション)
抜歯を行うと時間の経過と共に周囲の歯槽堤は急速に吸収していきます。
それを可能な限り防止するために骨移植材とメンブレンを使用する方法です。
オーバーデンチャー
最小限のインプラントを使用することで、安定した、動揺のない入れ歯を作ることが可能です。
喫煙について
喫煙者は非喫煙者にくらべてインプラントの成功率も若干劣るという科学的データーがあります。特に特殊な手術の場合は少なくとも術後しばらくは休煙をおすすめします。