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MFTと口腔習癖(口呼吸・お口ポカン編)

日々の診療でも勿論のこと、私は小学校の学校歯科医でもありますので、毎年の検診時にいつも思うことがあります。

検診ではミラーを使用するのですが、ミラーを口の中に入れた瞬間に曇ってしまうのです。鼻呼吸をしていればそのようなことはないのですが、口呼吸をしているからそうなるのです。そのような児童の多くは何らかの不正咬合を持っています。口呼吸(お口ポカン)が成長期の児童の口腔発育に悪影響を与えることがわかっていますので、矯正治療においてもMFT(筋機能療法)は必要ですし、長期的な予後の観点からも非常に重要です。

そこで今回は口呼吸についてお話したいと思います。

新生児は基本的に鼻呼吸です。哺乳中も睡眠中も鼻呼吸しています。鼻呼吸が困難になると、代替えとして口を開けて息をします。鼻呼吸が困難になる理由は鼻閉です。生後6ヶ月を過ぎ、免疫効果が失われる頃、乳児は様々な病気にかかります(発語と同時期)。風邪は最も初期的、あるいは一般的なもので、罹患したり治ったりを繰り返すことで、鼻閉時の口呼吸が習慣化してしまいます。

 その他鼻呼吸障害を引き起こす状況、疾患としては、アデノイド、口蓋扁桃肥大、アレルギー性鼻炎、後鼻孔閉鎖、鼻腔異物、慢性副鼻腔炎、鼻中隔彎曲症、鼻茸や鼻腔腫瘍などがあり、特に大きな影響を受けるのは乳児期、幼児期、小児期で臨床上最も問題となる疾患はアデノイドや口蓋扁桃肥大です。

 鼻呼吸障害で口呼吸となるのは、もちろん成人でも起こります。しかし、口呼吸を常習としている乳幼児や小児における場合が最も重要です。なぜならば、顎顔面や歯列形態、心肺機能、精神身体発育に大きな影響を及ぼすからです。

 アデノイドや肥大した口蓋扁桃の切除などにより、口呼吸から鼻呼吸へと自然に変化する場合もありますが、その場合でもMFT(筋機能療法)で指導をおこなったほうが好ましいでしょう。

 ある報告によると、生後6ヶ月頃に離乳の時期を迎え、おっぱいやおしゃぶりから離れた口は空気を吸うようになります。日本では離乳の時期は1歳前後ですが、海外では3〜4歳が常識です。実はこの時期が問題であり、おしゃぶりを1年でやめてしまうと鼻呼吸が定着する前に口呼吸を覚えてしまうとのことです。

 また、永久歯の萌出異常により、上顎前歯の唇側傾斜や突出が認められる場合、口唇が閉じられず、鼻呼吸ができるのにも関わらず口呼吸が始まることが考えられます。

 私たちが吸い込む空気には様々な異物や病原菌が含まれています。鼻呼吸ではその50~80%は鼻粘膜に吸着され、処理されます。異物が突破した場合でも、次の上咽頭で体内に侵入するのをブロックします。鼻呼吸の場合は冷たく乾いた空気でも、鼻腔で暖められ、湿度を含んだ状態で喉まで到達します。加湿が十分だと肺に酸素がスムーズに吸収され、免疫力も向上します。

 一方、口呼吸では口から取り込まれた空気は、そのまま喉まで取り込まれ、喉の粘膜が様々な病原菌に晒されることになります。喉には温度や湿度の調節機能がないため、取り込まれた冷たく乾いた空気で粘膜やリンパ組織に損傷を与えることになります。口呼吸は酸素を取り込み過ぎる原因の最たるものと言われています。酸素を取り込み過ぎると血中の酸素が効率よく細胞に運ばれず、結果的に全身へ供給される酸素量が大幅に減少。脳への場合、口呼吸の習慣で酸素供給量が半減するという研究報告もあります。また、空気が鼻腔を通らないと、鼻腔に汚れが溜まり、鼻粘膜が炎症を起こして肥厚し、免疫力の低下を引き起こすと言われています。

 鼻呼吸ができず口呼吸しながら食事すると、食物の処理と呼吸が同調せず、むせやすくなります。

 口呼吸をしていると常に口が開いているため、舌を前方に押しだし、歯と歯の間に位置していたり、あるいは歯を内側から押しており、上顎前突、開咬、空隙歯列弓の原因になります。我々歯科医師、矯正医としては一番問題となる部分になります。口呼吸(鼻閉)を無視しての不正咬合治療はあり得ませんし、矯正治療のゴールは「鼻呼吸である」とまで言われています。

 免疫性疾患(アトピー性皮膚炎、ぜんそく、花粉症、アレルギー性鼻炎、潰瘍性大腸炎など)、脳・血管障害(糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞など)、内臓疾患(肝炎、腎炎、肺炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など)、精神疾患・精神障害(認知症、抑うつなど)があります。注目すべきは、口呼吸の人ほどうつ症状になりやすいということです。そして、鼻呼吸で自律神経が整うと体の不調が改善し、気分も快方に向かうことが多いといわれています。

 成人の方であれば自分自身で鼻呼吸か口呼吸かの判別は難しくないと思いますが、親御さんがお子様の判別をおこなう方法をお話しします。鼻疾患があれば、まずその治療を優先するのは言うまでもありません。口唇を介助しながら閉じさせて鼻の下に鏡や小さく切ったティッシュをあてがい鼻呼吸の有無を確認します。

 鼻呼吸の獲得をするためにMFT(筋機能療法)が必要になります。まずは現在どの程度鼻呼吸が可能かをストップウォッチや時計で計測します。食事以外のリラックスしている時間に1日数回、顎と唇を閉じさせ、奥歯を咬ませて鼻呼吸の練習をします。時間を計りながら少しずつ時間を延長していきます。この時苦しくなるまで頑張りすぎないことがポイントになります。外出から帰宅した後に、常にうがいをさせ、口腔内と鼻咽頭部を清潔にさせ、上下口唇を閉じ、口を手で塞いで息をする練習、特に鼻で大きくフーフーと息を吐かせた後、胸を拡げて息を吸い込ませます。この時下あごを前に突き出させ、前歯を突き合わせの状態にさせ、狭窄している咽頭部を拡げさせて鼻呼吸の訓練をできるだけ多くの回数を行わせます。非常に地味な訓練ですが、習慣化した口呼吸を変えるためには避けては通れません。また、睡眠中に「マウステープ」を唇に張るというのも良いかもしれません。専用の商品が販売されていますし、マスキングテープなどでもかまいません。しかし、これは強制的に鼻呼吸をさせるのには有効ですが、根本的な解決にはならないことがあり、やはりMFT(筋機能療法)を併用するのが好ましいでしょう。

以上のように、口呼吸のデメリットは多いですが、鼻呼吸のデメリットはありません。したがって、どちらでも良いのではなく、鼻呼吸に変える意味は大きいと思います。

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